2006年に見た映画


カポーティ
父親たちの星条旗
太陽
約束の土地
悪童
X−MEN ファイナル・ディシジョン
プルートで朝食を
グエムル 漢江の怪物
M:i:III
ホテル・ルワンダ (2006年6月2日 新潟・市民映画館シネ・ウインド)
ブロークバック・マウンテン
百萬人の身世打鈴 (2006年4月15日 新潟市万代市民会館)
クラッシュ
シリアナ
冒険者たち
ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女
ウォーク・ザ・ライン/君につづく道 (2006年3月8日 T・ジョイ新潟万代)
力道山
ウィスキー (2006年2月26日 新潟市民プラザ 第16回にいがた国際映画祭)
亀も空を飛ぶ (2006年2月26日 新潟市民プラザ 第16回にいがた国際映画祭)
ネオン・バイブル (2006年2月24日 新潟・市民映画館シネ・ウインド 第16回にいがた国際映画祭)
モロ・ノ・ブラジル (2006年2月22日 新潟・市民映画館シネ・ウインド 第16回にいがた国際映画祭)
ジャズメン (2005年2月22日 新潟・市民映画館シネ・ウインド 第16回にいがた国際映画祭)
ほら男爵の冒険 (2006年2月21日 新潟・市民映画館シネ・ウインド 第16回にいがた国際映画祭)
PROMISE/無極
THE 有頂天ホテル
ガラスの使徒(つかい)
スタンドアップ
カポーティ
Capote - USA - 2005 - 115 min.
2006年11月29日 ユナイテッド・シネマ8新潟
重いけれど、必見だと思う。でも映画として本当によくできているかどうかは留保。

父親たちの星条旗
Flags of Our Fathers - 2006 - USA - 131 min.
2006年11月9日 ユナイテッド・シネマ8新潟
本当にきついけれど、必見だと思う。

太陽
The Sun - 2005 - Russia / Switzerland / Italy / France - 110 min.
2006年10月17日 ユナイテッド・シネマ8新潟
いろいろ言いたいこともあるけれど、必見だと思う。

約束の土地
悪童

Ziemia Obiecana A.K.A. Land of Promise - 1975 - Poland - 178 min.(USA version)
2006年10月7日 新潟市美術館講堂
新潟市美術館で開催中の『ポーランド国立ウッチ美術館所蔵・ポーランド写真の100年展』関連事業としての公開。他にはコンサートやショパンについての講演会など。こういう企画は本当に偉いと思う。それでちゃんとたくさんの人が足を運ぶんだから、たいしたものであります。この日も会場は満員に近かったですし、ショパンについての講演会なんぞ急遽、第二弾が開催されることになったそうであります。←ちょっとケロロ調。

で、この『約束の土地』ですが、以前見たバージョンとは異なります。ワイダ本人が再編集したものだそうです。はっきり言って昔の記憶はないので、どこが違うのかわからなかったけれど、ある印象的なシーンがあって、ほーとか思っていると、そのシーンは再編集時に追加されたものだということを終映後の学芸員さんの解説で知りました。この新しいバージョンは2000年頃(ちゃんと説明されたんですが、忘れた)に作られたもので、日本未公開。学芸員さんが新たに日本語字幕をつけたそうです。だからこのバージョンを見えるのはこの新潟市美術館だけ。

で、内容は自主組織労組『連帯』や東欧革命以前の製作なので、ポーランドの国家権力による検閲との戦った跡が(再編集版とはいえ)話の構造に見え隠れします。表向きは資本主義批判をしながら、いかに監督としての「人間的」主張を伏流水として画面に潜ませるか。そこはすごく面白く見ました。再編集したせいか、記憶のなかでは大河ロマンのように思っていたけれど、すごくすっきりしたストーリーだった。わかりやすい。

ただ今見てもグロいシーンがけっこうあるなあ。たくさん人が死ぬ映画だけれど、わざと陰惨に撮ってるようなシーン多々あり。小さなお子さんと観る方は気をつけましょう。

この新潟限定字幕版『約束の土地』も貴重ですが、もっとすごいのが『悪童』。これをサイトの宣伝で見たとき、小賢しい私はてっきり『悪』のタイポかと思い込み、美術館のスタッフに違ってますよと偉そうに連絡したほどでありました。愚か者とは私のことです。恥かしいっす。

この『悪童』、なんとワイダの国立ウッチ映画大学在学中の課題製作。宿題ですな。大学に保存されていたものをわざわざ借りてきたそうです。チェーホフ原作の6分ほどの短編。いくぶん直截な表現もあるものの、短編ならではのリズムの良い部分もあり、全体的にはすごく良い作品でした。まあ私なんぞが評価するのもおこがましいのですが。なんといってもこんなものを見えるというのがうれしかった。ワイダで博士論文書く人は必見。新潟に来い。ま、ウッチまで行っても良いけど。

こうやって野心的な企画の美術展を開催し、いろんなイベントも企画し、映画まで借りてきて、さらにはウッチ、アウシュヴィッツなどを訪ねるポーランド旅行まで実施するという美術館の姿勢には本当に頭が下がります。しかし公立美術館のおかれた立場をもう少し大きな範囲で考えると、頭なんか下げてるような場合ではなく、現場はもっと大変なことになっていて、それはもう「平成大合併」がまったく市民社会に利益をもたらしてない典型になってしまっていると思う。学芸員さんたちの窮状は外部からはちょっと想像もつきそうにないほどではないか。舌足らずな書き方で申し訳ないですが。


X−MEN ファイナル・ディシジョン
X-Men: The Last Stand - 2006 - USA - 105 min.
2006年10月5日 ユナイテッドシネマ8新潟
シリーズ3本中、はじめて面白いと思った。やはりミュータントがアイデンティティでうだうだ悩むとこなんか描かずに、どんどん戦ったほうが吉。Bryan Singer よりは Brett Ratner のほうが私は好きだということかもしれない。ま、何はともあれ、これは良かったです。みんな(ってもマグニート以外。彼は今回も駄目だった)かっこいい。SFアクションはやっぱこうじゃないと。ウルヴァリンの前世なんかどうでもええやんけ。

だいたい前作の最後でドクター・ジーン・グレイはああなったわけだから、今作ではこうなるしかない。Phoenix ←発音が難しいぞ。演ずるはSFおたくにとっての<生き神様> Famke Janssen でございます。それにしても今回、彼女は特にかっこよござんした。なんつっても史上最強のミュータントだもんなあ。

誰が死んで、誰が生き返ろうが、誰が北極で氷漬けになって、誰が大雨降らしてアフリカの飢饉を救おうが、誰が関東ヤクザの娘と結婚して、誰が別の銀河系を滅ぼそうが、まあはっきり言って原作のストーリーラインはもう滅茶苦茶(というのは誉め言葉でもあります)になっているんで、もう何がどうなって誰がどうなってもファンは喜ぶ。ただし、もうこれ以上このキャストでは無理だろうなあ。みんな偉くなりすぎて。この先、いったい誰がアカデミー賞女優のハル・ベリーに「じゃあ、ここで白目むいてくるくるまわって嵐を起こしてください」って言えるだろうか。第1作以降、みんな跳ね上がったギャラの総計など言わずもがな。


プルートで朝食を
Breakfast on Pluto - 2004 - Ireland / UK - 129 min.
2006年9月14日 新潟・市民映画館シネ・ウインド
楽しい映画でした。なにせ Neil Jordan なんで、IRAなどいろいろ出てきて、人もたくさん死ぬし、まちがいなく政治映画ではあります。でもいろんな意味で「楽しい」映画だった。主人公 'Kitten' のキャラクターのせい(性?)もあるだろうけれど、不幸を不幸と思わない知恵というか、能力というか。それを彼/彼女はもっている。たいしたことでもないのに自分は不幸だと嘆く方々がいらっしゃいますが、それは頭の悪さにどこかで連結しているのだと思う。ごめんなさい偉そうで。でも、そういう頭の悪い人たちと 'Kitten' は違うということを、映画の最初に登場する雀(かな、あれは)までもが知っていたということでしょう。

その冒頭の雀シーン、バックに流れるのは The Rubettes の世紀の大名曲 "Sugar Baby Love" であります。これは僕らの世代がポップスというジャンルにはまり始めることになる曲のひとつですが、その他にもいろんな曲が流れます。それらを聞きながらいまさらのように認識したのは、このブリティッシュ・ポップス全盛期はそのまま戦後イギリス社会における政治的暴力の最盛期(という言い方も不謹慎だけれど)とぴったり重なるということでした。そうだったんだなあ。そしてその直後、セックス・ピストルズが爆発する、と。

ちなみに、この"Sugar Baby Love"、 YouTube ではカラオケ字幕つきで堪能できます。ぜひ。3バージョンくらいあって、すべてあたりまえのようにくちぱくですが。メンバーの動き方も面白いよ。

もうひとつおまけ。映画で突然 Bryan Ferry が Mr. Silky String という役で出てきます。「麿赤児」状態。これはびっくりした。


グエムル 漢江の怪物
The Host - 2006 - Japan / South Korea - 119 min.
2006年9月11日 ユナイテッドシネマ8新潟
すごく面白かった。出し惜しみせず、画面をのっししのっしし走り回る怪物。俳優たちの演技の濃さ。細かいところに出るユーモア。画面の新しさ。画面の安定感。アメリカ軍批判の社会派映画の振りをしつつ、まったく別のことを伝え、でもやっぱりアメリカ嫌いっ……ということを伝えようとする構成。「ハリウッド文法を裏切る構成」でもいいか。

くやしかったら、お前もこんなもん作ってみい。←お前って誰だ。


M:i:III
Mission: Impossible III - 2006 - USA - 125 min.
2006年8月11日 ユナイテッド・シネマ新潟
デ・パルマの1がつまらなくて、ジョン・ウーの2は面白くなっていたのになあ。3でまた駄目になってしまいました。

そもそも『スパイ大作戦』なのに、各エージェントの人生なんか見たくなるかあ? パーティで何を食べてんのか、どんな家庭を築くのか、子供は何人で、車の色は……そんな出歯亀趣味ならテレビのワイドショーでなんとかしてこい。この時点でださださ。エージェントどうしで家庭内の愚痴をこぼしてどうする? あるシーンなんぞ、そこらの中小企業の社員食堂かと思うほどだった。

そのうえ『スパイ大作戦』なのに、組織内部のどうでもいいような裏切りを見たいかあ? 誰が「わるもん」で、誰が「ええもん」かわからないというファクターがこの活劇のいちばん面白いところをそいでしまうということになぜ気づかないんだろうか。これでいっそうださださ。そんな内部事情を描かないからこそ、ミッションに集中できるんじゃないか。だいたい彼らのミッションが「正しい」かどうかなんか、この作品の面白さとはまったく関係ない。そういうところをすっとばすからこそ最初のビデオテープ(じゃない場合もありますが)でのミッション説明のシーンが面白いんだろう。「なお、このテープは自動的に消滅する」んだから。つまらない「陰謀」や「政治」を描くのならテープなんか消滅させる必要はないだろう。

さらには『スパイ大作戦』なのに、大失敗することがわかっているミッションを見たいかあ? ミッションが失敗することを映画の冒頭でわざわざばらさなくてもなあ。だからそのミッションをチームが一生懸命やっても、ぜんぜん面白くない。「どうせ失敗するんでしょ」と思いながら見ていて、どきどきするはずがない。ここで致命的にださださ。映画を見ているとき、この失敗ミッションはあっという間に終わって、次の復讐ミッションか(良い意味での)観客裏切りミッションが始まるのかと思っていたら(以下、自粛)。たしかに、Mission が Impossible だったよ、と捨て台詞のひとつも言いたくなるよなあ。

これは『スパイ大作戦』でなくて、『M:i』だから、という言い訳はとおりません。これはあの傑作TVシリーズと違う別物だというのなら、ラロ・シフリン作のあの名曲は使うべきではない。

ただ、悪の王道どまんなかの Philip Seymour Hoffman はさすがでございました。


ブロークバック・マウンテン
Brokeback Mountain, 2005 - USA - 134 min.
2006年4月17日 ユナイテッド・シネマ新潟
いやあ、みんな大変なんだなあ。というのはよくわかった。

と、茶化してますが良い映画でした。そう、みんな大変なんだよ。だからこそ「みんな」というのは各個人で、それぞれがそれぞれの自己実現の方法を見つけようとしていることを確認しないといけない。ところがそこにジェンダーやらクラスやらが入り込んできて、その確認をはばもうとする。読んでないのでわかりませんが、おそらくはすこぶる単純な原作を、ここまでの表現にしたのは本当に立派な行為だと思う。

作品としては『クラッシュ』のほうが好きかなあ。が、アカデミー賞におもねるわけではないけれど、画面自体はこっちのほうがテンポも良く(というのは単に速いということではないっす)、構成もしっかりしていると思った。こんな地味こかしたストーリーをよくも飽きさせもせず、最後まで見せたと思う。男どうしの愛がテーマだから表面上はスキャンダラスに見えますが、そこを抜けば普通の不倫映画(っていうのがどういうものかはおいておいて)ですよ。その意味では画像の力、大。本当に Ang Lee 監督、うまい。

でも内容も『クラッシュ』におとらず、すばらしいと思う。ジェンダーバイアスを作り続けてきたハリウッド。そことの距離を測る映画ともいえるか。嗚呼、カリフォルニアからワイオミングまで幾千里。

ただ、またここでも宣伝にいちゃもんをつけておくと「友情がいつのまにか愛情に……」みたいなことをコピー等でいっておるが、そういう映画ではないぞ。あの二人にどんな友情があったんだ? そもそも友情と愛情ってそんな関係にあるものか? だいたいこの映画でもいきなりって感じだったし、愛情なんてそんなもんだからこそ、ああなるしかないんじゃないかなあ。あんまり深くは考えたくないが。

それにしても、『スタンドアップ』『シリアナ』『クラッシュ』『ブロークバック・マウンテン』と今年になってから見たアメリカ映画を並べてみると、正直えらいなあと思ってしまう。この状況にもいろいろ問題はあるということは各映画のところに書いているけれど、全体としてこうしたラインの映画が作られ、大量のお客さんもそれを見に行くというのはそんなに容易に生ずることではない。

それに比べて(といつものことですが)、三重苦のキツネ(って言ってもそもそもキツネが言葉を発するかあ?)を「ヘレン」と名づけること自体を恥かしいともなんとも思わない非道な人間は、さらにそのキツネを「不治の病」(ってなんだ? キツネにとって)に陥れ、それをガキと戯れさせてあぶく銭を稼ごうとする。あるいは若年性アルツハイマーのサラリーマンを画面に出すから、死んだ恋人を枕元に現れさせるから、スト破りを自慢して恥じないJR職員を過労死させる直前に娘の幽霊といちゃつかせるから、お客さん、頼むから入場料払った上で泣いてくれ……ってなあ。日本映画産業、根腐れ状態っす。


クラッシュ
Crash, 2005 - USA - 112 min.
2006年4月14日 ユナイテッド・シネマ新潟
あの『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本をたった一人で書いていた Paul Haggis の監督作。Producer に Don Cheadle。まじめに作った良い映画でした。演技陣も良い。でもやはりこういう映画を見ると、現実はもっと悲惨なんだろうと思ってしまう。

と手を抜いているわけではなくて、下記の『シリアナ』とその立場所がすごく似ている映画でした。ただしこちらは群像劇。正直いうと近年の群像劇としては『マグノリア』や『トラフィック』のほうが本作より出来が良いと思う。でもこれも見ごたえのある良い作品だった。

当然いろんな役者が出てますが、役者で特にいいのはレイシストの警官役 Matt Dillon。「ヤング・アダルト」の代表みたいに言われていた人がこんな役をこんなふうに演じるようになるなんて。個人的には故・大串君に似ているので、いろいろ思い出したが。Don Cheadle も製作も兼ねているだけに良い演技をしてました。

ただ、こういう映画で気になるのは最初にも書いたように現実との関係。アメリカのいろんな社会問題が、その理由や原因も含めてここまでわかっているのに、ほとんど改善される気配がない。すぐにぶちきれるそこらのおっさん(というのは程度の差こそあれ誰でもあることなので、要するにありとあらゆる人)がいとも簡単に低価格で拳銃を買えるって、やっぱりおかしいことだ。ところがそれを描くことが、どうしてその状況を改善することに結びつかないのか。というよりもむしろ現状肯定に近づく危険性さえある気がする。

こういう映画が作られアカデミー賞まで取るということは、それはそれで良いことだとは思う。しかし、まさにその作品が世間的に評価されることによって、問題そのものは世間的に放置されているのではないか。「こういう映画を作り、なおかつ高く評価するハリウッドがあるアメリカという国は良い国です」みたいな論調がどうもこの映画の評価の背景に感じられて不愉快でもある。この映画の責任ではないですが。

そうした点とも若干関係するかもしれないけれど、本作では群像劇中の大量の登場人物の描き方がいくぶん月並みな線に流れ、そこも甘い気がした。ただ、そういう甘さがアメリカ社会での「希望」の描き方につながったのも確かで、個人的にはその「希望」の提示そのものは評価したい。この「希望」の提示の仕方は『シリアナ』や『ミリオンダラー・ベイビー』とはまったく違っていた。そこをどう評価するか。良いと思うか、甘ちゃんと思うか。本学の学生さん、ぜひ映画館で見て判断してみてください。


シリアナ
Syriana, 2005 - USA - 128 min.
2006年3月27日 T・ジョイ新潟万代
あの『トラフィック』の脚本をたった一人で書いていた Stephen Gaghan の監督作。Executive Producer に Steven Soderbergh。まじめに作った良い映画でした。演技陣も良い。でもやはりこういう映画を見ると、現実はもっと悲惨なんだろうと思ってしまう。

この映画で描かれているアメリカの外交なんて、結局「邪魔な奴はぶっ殺せ」という児戯レベルのものでしかない。それを描くのは偉いけれど、実際そういうことをこれまでのアメリカ政府はいくらでもしているし、現在でもやっている。そういう恥知らずな行為以外の外交も当然してはいるが、正当性のかけらもない残虐な暴力を常に使用することが予定調和的に内包されているアメリカ外交を、他の国(だってそりゃあなんらかの汚いこともしているでしょうが、あそこまでひどいことを国家主体がやってるか?)の外交と同様に「外交」と呼ぶ国際政治学の言説には強烈な違和感をもってしまう。

つまりこの映画は悲惨な現実を描いてはいるけれど、その本当の悲惨さとは、その悲惨さをみんなわかっていながら、みんな偉そうな理屈をつけて悲惨だということにしていない、その問題だと思う。やっぱり政治学は一種の文明論になるしかないのだろうか。

ちなみにアメリカ政府に言わせれば、アメリカの外交における基本姿勢は「人権外交」だそうで、いろんな国でアメリカ政府の出先機関がそういう広報活動をしてらっしゃいます。もうこうなると悪い冗談とかどうとか言うよりも、人間の脳の力の定義の問題かなあとまで思えてくる。

いろいろ腹も立ってきますが、良い映画です。ヒットしなかったらしいけど。ところで、「シリアナ」って何? 検索すりゃあわかるんだろうけど。このタイトルとこの宣伝ではヒットさせるのはちょっと無理だろう。そういうところ、もっと配給会社も考えれば良いだろうに。


冒険者たち
Les Aventuriers, 1967 - France / Italy - 106 min.
2006年3月17日 新潟・市民映画館シネ・ウインド
このタイトルでレティシアを思い出すか、ガンバ(と白イタチのノロイ)を思い出すか。僕らの世代は両方を懐かしく思い出す。ついでにいうと「あのねのね」主演の映画を思い出す世代でもあります。誰も知らんでしょうが。行ったなあ、コンサート。

あまり解説もいらん映画だろうけれど、このロベール・アンリコの作品は僕らの世代に圧倒的な影響を与えていると思う。もちろん最初に見たのはTVだけれど、あの主題歌を含めた音楽全体、画面、無謀ともいえるほどのストーリー。いろんなところでそれまで接したものとは違う「かっこよさ」を、あるファンタジーのなかで教えてくれていたと思う。 下で悪口を書いたナルニアの一億倍はファンタジー魂があふれていると思う。

当時の(そしておそらくは現在も)小学校高学年の男子にとって「かっこいい」以外の価値があるだろうか。アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス。この3人がかっこいいのは当然としても、その周りにあふれるものもかっこいい。ゼロヨンレース用ホットロッド、凱旋門をくぐる軽飛行機、現代芸術とパリ市街、アフリカの港町、海底に眠る財宝、潜水服、ヨットの上で食べるスイカまで。あらゆるものがかっこいい。

ところが映画の後半、ある戦いの気配が漂いはじめると、そこにはシュマイザーMP−40、ルガーP−08、柄付手榴弾M−24(ポテトマッシャー)などとナチスの武器が登場し始める。これらはこれらでかっこいい……と言ってしまうのには問題はありますが、でもアンゼルム・キーファーの絵画、彫刻などにも見られるような「魅力」をこのルガーP−08のデザインも持っていると思う。それはともかく。以上のようなナチス、あるいはヴィシー・フランスを想起させるような小道具の羅列、そして意味もなく暗い登場人物の表情、ラストの戦いの場所など考えると、この映画はただ単に「かっこいい」だけでなく、ナチスあるいはペタン派とレジスタンスの対立の気配さえ漂ってくる。ヴィシー政権崩壊後も続く独・仏間の植民地(に残った財宝の)争奪戦。

本田勝一がどこかで批判していたように、この映画のストーリーは宗主国からの植民地主義的な視点のみで成立していて、コンゴの人々のことがまったく無視されている。本田勝一という人の書いたものにあまり同意したことはないのだけれど、本作に見られる政治性のその問題点についてはそのとおりだと思う。

しかし、宗主国間の対立もこの映画にはあるわけで、これはこれでとても政治的なものだ。テレビでこの映画を見た数年後に同じアンリコの『追想』を映画館で見て、あのすごく陰惨な物語(かなりグロい復讐譚です)のなかに、ナチズム批判への方法論というか、ある政治性というか、ともかくそういうものをあの映画のなかに見てしまって、じゃあ、あの『冒険者たち』のノンポリさはなんだったんだと思い始めた記憶がある。それから時々ぐだぐだと考えていることです。「かっこいい」だけとは思いたくない映画なんで。

政治って難しい。映画も難しいが。


ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女
The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch, and the Wardrobe, 2005 - USA - 139 min.
2006年3月13日 ユナイテッド・シネマ新潟
つまらん。しゃべるビーバー以外、見るべきものなし。ひと言で言えば、今いくよVS今くるよ、という映画だった。

それはこっちが『指輪物語』を読んでいて、『ナルニア国物語』を読んでないからだけではないと思う。そもそもリアルじゃないファンタジー映画ってありなのか。(下手な)CG使いすぎ、セット撮影も使いすぎ。画面に魅力なし。人間、ばけもん、動物など、登場するすべてのキャラクターに魅力がない。子どもを子ども扱いすると子どもに復讐されるぞ。ディズニー、ぱっちもん商売の末路。

『指輪』ファンは哄笑し、『ナルニア』ファンはこうべをたれる。

追記:2006.08.26.
「今いくよVS今くるよ」ってなんだ、という指摘が友人数人からありました。似てないですか。<氷の女王=いくよ VS 主人公兄弟姉妹の末っ子=くるよ>です。


力道山
Rikidozan, 2004 - South Korea / Japan - 149 min.
2006年3月7日 T・ジョイ新潟万代
とてもよい映画でございました。プロレスファンならずとも、あるいは力道山先生の同時代人ならずとも必見。見たのは日本版。韓国版は見てませんが、これより12分短いと日本語サイトでは書かれてあります。英文サイトだと 125 min. と表示されているので、さらに短いバージョンもあるのかもしれません。しかしそんなことはどうでもいいほど、本当に見ごたえがあった。この気合の入り方だともっと長くても大丈夫。

とにかくこの映画はソル・ギョング。もう彼の演技を見るだけで金払う価値あります。普通のシーンから試合のシーン。彼が出るだけでひきつけられました。

ソル・ギョングの演技以外にこの映画で偉いと思ったのは、ストーリーの大事な山場がすべてプロレスシーンとなっていること。そしてそれらのプロレスシーンがとてもよく撮れていること。プロレスを描かざるをして力道山先生を描くことなかれ、という気持ちで作ったんだなあというのがわかりました。映画の「売り方」としてもそれは成功していると思う。戦後を描いてプロレスを描かない力道山先生の語り方が多くてうんざりしていたので、この点はとても感心いたしました。

力道山先生の個性そのものの描き方もうまい。単純にヒーロー化してないし、民族の問題、差別の問題、貧困の問題、レスラーのあいだのジェラシーの問題、恋愛の問題、アルコールやドラッグの問題など、さまざまな「問題」が彼の性格として語られる。脚本に時間かけたんだろうと思います。

その脚本ですが他のキャラクターはかなり整理しています。力道山先生を描くのであれば、当然登場すべき人間が出てこなかったり、数人のキャラクターを一人にまとめていたり。なにせ、ご存命中の方も多いのでこのように省略せざるをえないというのもよくわかる。その結果、かえってテーマもすっきりし、力道山先生の生きざまもよく伝わったと思う。

また多くの現役プロレスラーが大事な役で出てきます。ハロルド坂田を武藤敬司、東富士(劇中役名・東浪)を橋本真也、木村政彦(劇中役名・井村昌彦)を船木誠勝、遠藤幸吉を秋山準、豊登をモハメド・ヨネ、シャープ兄弟をマイク・バートンとジム・スティール、その他にもリック・スタイナーなどが登場。この映画の撮影後、橋本が急死してしまっているだけにいろんな意味で彼らの演技は私の心を打ちました。

本当は馬場と猪木がなぜこの映画にいっさい出ないのか、あるいは橋本、武藤が出演していてなぜ蝶野が出ないのか、などちょっと別系統の事柄についても書こうと思ったんですが、大学が忙しい年度末。時間があればまたそのうち。

おまけ。大木金太郎を演じる俳優さんが本人の若い頃そっくりだったんでびっくりした。


PROMISE/無極
The Promise, Master of the Crimson Armor, 無極, 2005 - USA / China - 128 min.
2006年2月12日 ユナイテッド・シネマ新潟
陳凱歌、どうしてこうなってしまったか。『黄色い大地』『大閲兵』『子供たちの王様』あたりはまじめに見ていて、『覇王別姫』以降、なんとなく見る気がしなくなった監督でしたが、ここまでになっているとは。見るべきものは何もない。いくらなんでもいまどきあんな古風(というよりは間抜け)なストーリーで世界中の人間から金を取ろうとするとは。あれが「愛」だというなら、そんなもん黄色い大地に捨てて来い。

それからあまりにずさんなCGシーンが連続して出てきたが、あれもいくらなんでもいまどきこんなひどいシーンがなんで商品になったのかという謎だけを与えてくれる。

見るべきものを無理に見つけるとしたら、真田広之のアクションシーン。ここは演じるほうも撮るほうもうまいと思った。あのとげとげの鉄球を振り回すシーンは特に良。真田が話す中国語もすごい。立派だと思う。


THE 有頂天ホテル
東宝 2005 - 136 min.
2006年2月7日 ユナイテッド・シネマ新潟
面白いだけで何が悪い! 言いたいことがなくて何が悪い! 何も残らなくて何が悪い! ……という映画でした。ただこの大晦日一晩かぎりの話をなんでまた年明けに公開したのか。謎である。年の瀬に見ていたらもう少し良い映画だと思ったにちがいない。

ガラスの使徒(つかい)
プログレッシブ・ピクチャーズ 2005 - 110 min.
2006年2月3日 新潟・市民映画館シネ・ウインド
唐十郎の原作、脚本を金守珍が監督。役者も含めてこれは舞台で見たかった。やっぱり舞台を映画にするのはむずかしい。とつぜん大久保鷹が出てくるシーンは笑った。

スタンドアップ
North Country, 2005 - USA - 126 min.
2006年1月20日 ワーナー・マイカル・シネマズ新潟
『クジラの島の少女 Whale Rider 』の Niki Caro 新作。しかしこの『クジラ』、じつは未見であります。ニューヨーク在のとき予告編は幾度と(本当に数え切れないくらい)見て、これは見に行かんといかんなあと思いつつ、転居の準備やら何やらで見えなかったもの。そんなことを言っていたら、ニュージーランド在の友人にDVDまでもらってしまい、こんどこそ見ねばと思いつつ、今日に至っているというものであります。

『クジラ』の紹介文や予告編からすると「差別」が話の中心になっているようですが、この新作も女性差別についての直球勝負の映画でした。それをこのように丁寧に作っているのは偉いと思う。見方によっては丁寧ではないという方がいるかもしれません。また、丁寧に作れば作るほど社会内に実在する差別の構造が作り手の主張のごとく見えてくるのではないか、という危険性もあるとは思います。でもそういう線を微妙に避けながらも問題の根本をはずさず、省略もせず、映画の最初から最後まで真正面において作っているというのは、こういう映画だからこそ偉いと思いました。

ミネソタの鉄鉱石の採取場における女性差別がテーマです。時代は1990年。ブッシュ(父)が保守派黒人のクラレンス・トーマスを最高裁判事に任命しようとしたら、トーマスの過去のセクシュアル・ハラスメントが発覚、ということがありました。自分の助手をしていた黒人女性アニタ・ヒルをデートに誘い、断られたらセクシュアル・ハラスメントを始めたということでした。議会で公聴会が開かれましたが双方の言い分とも確固たる証拠がなく、結局上院の投票によってトーマス就任が僅差で承認されると。公聴会などの映像がこの映画にもときどき入ります。登場人物たちも事件に言及します。

そしてこのトーマスの事件と平行してある労働裁判が進行した結果、セクシュアル・ハラスメントは人権侵害だとする判例が確立する……とアメリカ史の教科書などではよく説明されています。というわけでこの映画のラストも一種の常識としてアメリカ社会では共有されているものだと思います。

だからこそ丁寧に作る必要があったのでしょうが、よくできてます。ブルーカラーの労働環境でありながらアフリカ系アメリカ人(黒人)がほとんど登場しないミネソタの雰囲気の表現から、脇役のちょっとした台詞まで。細かいところまでよく作りこんでいます。本当はあの場所の労働はもっと過酷なんじゃないかとか、機械化ってもっと進んでんじゃないかとか、いくらなんでも労働組合があれじゃあなあとか思うシーンもあります。でも考えてみればもう15年も前のことだし。あの時代はあんなもんだったのかもしれません。

そうした細かい設定に応える俳優の演技がみんな良いです。主人公を演じた Charlize Theron も自分のハードボイルドな過去を感じさせるようで感じさせない不思議な巧さ。『ファーゴ』でノース・ダコタの丈夫な婦人警官を演じた Frances McDormand はここでも北部の女を好演。台詞まわしがうまいんでしょう。こういう使われ方が多いですね。その夫を演じた Sean Bean もすごく渋く、時計修理が趣味という変人の心根を気持ち悪さ一歩手前でうまく抑えて表現。主人公の母親役を Sissy Spacek。時間の流れを感じさせつつ熱演してます。ストーリーの大事なところでこの母親がああいう行動にとるとさすがにあれもああなるしかないよなあと観客に思わせるところはすごい。キャリー・ホワイト役から幾星霜。なんといってもプロムのドレス姿で豚の血を頭から浴びた人間だしなあ。

ただ一点、邦題が。悪いとは思わないけれど、もう少しなんとかならんかったですか。確かに台詞のなかに「立ち上がれ」とは出るし、原題のままだとどうも『北の国から』みたいで逆方向の雰囲気がただよってしまうというのはわかるけれど。ないものねだりです。本当に良い映画でした。


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